
「コーポレーション」プロジェクトについて
ここでいうコーポレーションは単なる事業会社だけでなく、広義の社団組織を指しています。このプロジェクトではコーポレーションの本質的な一面を集団的な認知システムとしてとらえ、以下の3つの次元から研究を進めることにしています。
1.本質面をとらえる
・コーポレーションのメンバーはそれぞれが保有する認知資産を用いて、組織のコンテクストに従った集団レベルでの認知に参加する。
経営者、実行者 (労働者など)それぞれのメンバーの認知資産とシステムによって使用される物的資産の3者間に成り立つシステム的な関係から、コーポレーションの組織アーキテクチャーの類型と、それぞれの類型に補完的なコーポレート・ガバナンスの類型が抽出されうる。
・このような視座をとることで、従来の方法論的個人主義に基づく理論のみでは捉えきれなかったコーポレーションの認識論的側面を明らかにするとともに、認知科学・脳科学における社会的認知に関する知見と社会科学の架橋を目指す。またそれは資本市場=株主による会社ガバナンスという従来の正統派の考えが、ひとつの類型を表現しているに過ぎないことを明らかにする。
2.歴史的側面から比較してとらえる
・コーポレーション自身、組織・経済・政治など様々な領域における社会的ルールに埋め込まれており、それゆえ互いに影響しあう社会的ルールの多様性に従って異なる振る舞いをみせる。こうした観点をとるならば、異なる地域において多様な社会的ルールが歴史的にいかに形成されてきたか、比較の視座から分析することが必要である。
・この点、社会科学諸分野において、なぜヨーロッパが他の地域に比していち早く経済成長を遂げたかという問題関心に基づく研究蓄積があるものの、比較のためには、とりわけ非西欧地域のケースに関する分析が一層求められている。
・本プロジェクトでは、資本主義経済の興隆以前におけるコーポレーション(社団組織)の形態や有無が、その後の政治・経済制度の発展に対しいかなる経路依存的な影響を与えたか、ヨーロッパ・イスラーム・中国・日本を比較分析することを通じ、議論したい。
3.現代社会に適用してとらえる
・資本市場や情報のグローバル化のなかで、先進諸国の資本主義にいかなる変容が生じたのだろうか。IT技術の普及や資本市場のグローバル化などの諸潮流は、企業のガバナンスにいかなる影響を与えているのだろうか。それらの変化が現在の金融危機を引き起こしたということはないのか。そうだとすると、コーポレーションにかかわる社会的ルールはどう変化してゆくのだろうか。コーポレーションにかかわる有形・無形の社会的ルールの歴史的依存性にもかかわらず、それらはグローバルな規模で収束するのだろうか、するべきなのだろうか。
・集団的認知システムとして企業を概念化し、経営者・労働者それぞれの認知資産と物的資産の関係から企業の組織アーキテクチャーとコーポレート・ガバナンスの補完性を類型化する理論的視座にとって、これらの問いは、コーポレーションと法や政治の相互作用のありようを捉える、重要なケース・スタディである。
このプロジェクトでは、コーポレーションという所与の組織形態を上述したような様々な視座からあらためて捉えなおすこと通じて、経済活動を巡る集団的認知の構造がどのような変容を遂げているか、またそれがマクロ・レベルのシステムとの間でどのような相互作用を及ぼしあっているか、といった問題を考察します。また、これらの分析を通じ、従来の国別の資本主義モデルでは捉えきれない、多様性の可能性に光を当て、現代の政治経済のダイナミズムの一端を捉えることも目標に掲げています。
本格的なプロジェクト始動を期して、上の論点を確認し議論を深めるための公開フォーラム開催を2009年3月28日に開催いたしました。
詳細は詳細は
こちら。
メンバー紹介
・
青木昌彦 1.[本質面をとらえる] 担当
・
中林真幸 2.[歴史的側面から比較してとらえる] 担当
・
鶴光太郎 3.[現代社会に適用してとらえる] 担当
・ 小野田拓也 研究助手
活動内容
・ 研究会
・ シンポジウム:
第4回VCASI公開フォーラム『コーポレーション』
日時 3月28日(土) 10時-17時
場所 日本財団ビル2階 大会議室
・鼎談:
VCASI公開フォーラム『コーポレーション』を振り返る
参考文献
・
M. Aoki, "Corporations, Games, and Societies (Clarendon Lectures 2008)
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